古代三関の研究と歴史学入門

大学生・社会人向け歴史学入門。自身の研究テーマは「三関(鈴鹿・不破・愛発関)の成立起源と停廃理由」

古代史研究の史料と辞典 〜国史大系から大漢和辞典まで〜

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歴史学の研究は史料が無ければ始まりませんし、辞典が無ければ困難を極めます。

しかし、何も知らずに図書館の数多ある本の中から日本古代史の研究に使用する書物を探し出すのは気が遠くなることでしょう。

僕が学生時代にゼミの担当教授から教わったものも踏まえて、日本古代史で使用する主な書物を紹介します。

日本古代史は図書館で研究しよう

歴史学全般に言えることですが、日本古代史の研究は図書館で行うことをおすすめします。

研究に使用する史料・辞典・専門書は、物理的にも経済的にも学生の身分で自前のものを揃えるのは不可能に近いです。

これから紹介する史料や辞典は、古代史研究をする上でスタンダードなものです。たいていの大学図書館や、地域にある大きめの図書館ならば所蔵されていることでしょう。

図書館のウェブサイトで蔵書検索ができれば、まずは所蔵されているかを確認することをおすすめします。それから図書館へ足を運んでみましょう。

ちなみにいずれも禁帯出といって貸出不可のものばかりです。所蔵されていれば、図書館に行って確実に参照できます。

史料

古代史は後の時代に比べて史料が少ないです。

史料が少ないということは史料批判が難しくなるということであり、逆に言えば参照すべき史料が限定されてわかりやすいということでもあります。

僕は学生時代にゼミのレポートや卒業論文で史料を幾度となく参照しましたが、古代史の基本的な史料は以下に紹介するものでほとんどだと思います。

また、史料を参照する時にどの叢書から探せばよいかも合わせて書いています。

『国史大系』シリーズ

史料を参照する時、第一候補となり得るのは『国史大系』シリーズです。

歴史研究の上で基本的な史料を収録している叢書です。特徴として漢文に返り点も打たれているので読み下しが容易です。

僕の学生時代、特に参照した史料を紹介しましょう。

  1. 『日本書紀』:六国史(神代〜持統:〜697年)
  2. 『続日本紀』:六国史(文武〜桓武:697〜791年)
  3. 『日本後紀』:六国史(桓武〜淳和:792〜833年)
  4. 『続日本後紀』:六国史(仁明:833〜850年)
  5. 『日本文徳天皇実録』:六国史(文徳:850〜858年)
  6. 『日本三代実録』:六国史(清和〜光孝:858〜887年)
  7. 『日本紀略』:六国史の抜粋と後一条天皇の代(1036年)までを記載
  8. 『公卿補任』:各年ごとに朝廷の官職を記した史料
  9. 『類聚三代格』:弘仁格・貞観格・延喜格の有効法をまとめた分類本

国家による編纂事業によって作られた歴史書を「正史」と呼び、日本の正史は『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』の6冊があります。それらの正史を「六国史」と総称します。

『日本三代実録』を最後に正史の編纂は行われなくなり、六国史の抜粋と『日本三代実録』以降を記した史料として『日本紀略』があります。『日本紀略』は大部分を散逸している『日本後紀』の補完にも役立っています。

また、六国史をはじめとする古代の史料は朝廷における政治家に関連する内容が多く、誰がどの官職に就いていたかを把握する必要があります。その時に『公卿補人』を使うといいでしょう。

『類聚三代格』は法令集で、古代法制を知る上で重要な史料です。また、漢文の読み下しと法令が出された背景を考察するといった史料読解の練習に最適です。僕は日本古代史で最もおもしろい史料だと思っています。

国立国会図書館デジタルコレクション

『国史大系』は3次に渡って編纂されており、1次編纂のものであれば国立国会図書館デジタルコレクションで無料で閲覧できます。

3次編纂のものと比べて収録されている史料に限りはありますが、自宅に居ながら『国史大系』を用いて史料を参照することが可能です。ぜひ活用しましょう。

『大日本史料』

『日本三代実録』以降の正史が存在しないということで、東京大学史料編纂所によって編纂されたのが『大日本史料』です。宇多天皇の代(887年)以降の歴史が記述されています。

『大日本史料』は特定の歴史上の出来事について記述がある史料を列挙するという形式の史料集です。つまり複数の史料を寄せ集めて1本の歴史書を作り上げたものです。

ある史料に書かれている事柄が別の史料で取り上げられているかを調べるのに便利です。各史料に書かれている内容の差異も一目でわかるので、史料批判の良い参考になるでしょう。また、その時代の研究はどの史料を使えばいいのかという指標にもなります。

ただし、『大日本史料』はあくまで史料集ですので、必ず引用元となった史料を確認しましょう。『大日本史料』から引用してしまうと孫引き(原典ではなく、引用からさらに引用すること)になってしまいます。

あと返り点が打たれていない白文なので、『国史大系』などと比べて読み下しが少し大変です。ただ、返り点は編集する人の解釈が入り混じるので、白文の方がミスリードが無いというメリットもあります。

『大日本古記録』シリーズ

『大日本古記録』は貴族などの日記を集めた叢書です。

『大日本史料』と同じく東京大学史料編纂所によるもので、これも同様に白文です。

僕は藤原実資の日記『小右記』や、藤原道長の日記『御堂関白記』を参照する時に使いました。

日本思想大系3『律令』

律令は律と令を合わせて称したものです。律は刑法を記したもので、令は刑法以外の行政法や民法などを規定しています。

日本における最初の本格的な律令は701年に制定された『大宝律令』ですが、散逸しており原典には辿れません。

757年に制定された『養老律令』も散逸していますが、『令義解』(養老令の公的注釈書)と『令集解』(養老令の私的注釈書)から『養老律令』は大部分が復元されています。そして『大宝律令』は『養老律令』を参考に復元されています。

律令に関しては国史大系シリーズの『律』『令義解』『令集解』もありますが、僕は日本思想大系3『律令』を主に参照していました。

現存する律の一部と復元された養老令の原文と注釈が記載されています。この1冊で律令の内容はほとんどカバーできますし、何より国史大系より整理されたページレイアウトで見やすいです。

故実叢書2『江家次第』

儀式や行事について調べる際には故実叢書2『江家次第』をよく参照していました。

『江家次第』は大江匡房によって記された平安後期における有職故実(ゆうそくこじつ)の私撰儀式書です。

有職故実とは古来の先例に基づいた儀式や慣例などの知識のことです。その知識に通じた者を有職者と呼び、その有職者が日記に残した有職故実をまとめたものが『江家次第』のような私撰儀式書として伝わっているのです。

『江家次第』の他に、古礼の儀式は源高明の『西宮記』、平安中期の儀式は藤原公任の『北山抄』が挙げられます。調べる時代によって参照する史料を変えましょう。

辞典

ここからは僕が古代史の研究をする上で使用した辞典を紹介します。

辞典類に共通して言えることは、歴史研究の上では必ずしも新しい辞典が良いとは限らないということ。

時代を経るにつれて新しい言葉が作られたり、言葉の意味も変化してきます。それらが追加されると古い言葉や意味が省略されてしまう可能性があるからです。

歴史研究では当時どのような言葉どのような意味で使われていたかが重要なので、新しい辞典だと必要な情報が手に入らないという事態もあり得ます。

以下に挙げる辞典類は古代史研究の上ではスタンダードで間違いのないものばかりです。

『国史大辞典』

『国史大辞典』は日本最大級の歴史百科事典で、古代史のみならず日本史を研究するならば最重要です。

その項目の数や情報量も膨大ですが、内容がどこからの出典なのかも記載されている項目もあるところが親切です。

japanknowledge.com

月額1,620円からの利用料金はかかりますが、ジャパンナレッジの会員になればデジタル版を閲覧することが可能です。

近くに所蔵している図書館がなければ利用を考えてみてもいいかもしれません。

『大漢和辞典』

古代史の史料は漢文で記述されており、1文字ずつ漢字の意味を調べながら史料を読み進めます。

そこで漢和辞典が必要になりますが、最も推奨されるのが『大漢和辞典』です。

全15巻の構成で部首ごとに巻を分けられており、その内の1巻が索引です。まず索引で調べたい漢字が載っている巻数を調べ、その該当の巻を見に行くという行程です。

これを1文字ずつ条文を読み終えるまで何度も繰り返すことになるので、なるべく『大漢和辞典』の近くにある席を確保したいところです。

索引を引くところが最も大変なので、頻出の部首は巻数をあらかじめ控えておくと索引を引く手間が省けて良いですよ。

大漢和辞典デジタル版 | 大修館書店 創業100周年記念企画

なんと2018年11月28日に『大漢和辞典』のデジタル版が発売されるそうです。

そのお値段は13万円のところが発売記念価格として2019年3月までは10万円。いずれにしても高いですね。

学生時代は「『大漢和辞典』が家にあったらなぁ……」と思ったぐらいお世話になりましたが、さすがに10万円以上するなら買う気にはなりませんね。

『古事類苑』

『古事類苑』は明治政府により編纂された日本唯一にして最大の官撰百科事典です。

それぞれの項目に簡単な説明と、六国史以降の文献から参考になる箇所を引用しています。

わからない事柄があれば調べて意味を知ると同時に、引用元となっている史料を辿っていくという使い方ができます。

『日本国語大辞典』

『日本国語大辞典』は日本最大規模の国語辞典です。

『国史大辞典』『大漢和辞典』『古事類苑』などでもわからない語句は『日本国語大辞典』で調べます。

japanknowledge.com

『国史大辞典』と同様に、『日本国語大辞典』もジャパンナレッジで有料会員になればデジタル版を閲覧することが可能です。

『日本古代氏族人名辞典』

人名について調べることも重要です。古代史の場合は『日本古代氏族人名辞典』が良いでしょう。

大化前代から六国史の終わりまでの古代史に特化した人名辞典です。生没年、父母、履歴、活動内容などが記載されています。

また、氏族名について姓発祥の由来や職掌、改氏姓の経緯、同族関係などが記載されています。

ただ、『国史大辞典』で事足りることが多かったので、僕自身はそれほど利用回数は多くなかったです。

『日本史総合年表』

和暦や干支による年代の表記を西暦に直すのに『日本史総合年表』を使いました。

また、年表を見ることで同時期や前後に起こった関連してそうな出来事も把握できるので研究のヒントにもなります。

専門書や論文を読もう

他にも参照できる史料や辞典はありますが、僕が繰り返し使用したのは以上のものです。

古代史研究をする上でひと通り目を通すのではないかと思います。

あとは自分が研究したいテーマを取り扱った専門書や論文を読むことが大事です。むしろ史料は辞典の出番はそれからですね。

次回の記事では実際に史料を読んでみましょう。

www.kodai-sangen.com